詩 「マシュマロ」

わたし、あなたにもらったマシュマロ食べた

マシュマロ、口の中で溶けた

液体になった嫌な甘さが、舌を這い、

喉に流れた

胃に向かう甘さ、さっきまで、マシュマロという形でそこにいた、甘さ

マシュマロは消化され、無になる

私の胃にて、無になる

あなたにどういう意思があったかなんてしらないけれど、

あなたが、マシュマロを探して、手に取った時間が、私の胃の中で、無になるの

すごく気分が良くて、

涙を流しながら、マシュマロ吐いた。



小説_1

高校3年の夏、

卒制展示会の日、

「いい天気なんだし、こんなの見てないで、デートでも行こうよ」

と私の作品の前で、そういった女を、今でも覚えている

花柄の薄いスカートに、フリルのついたブラウス、綺麗に巻いた髪も、覚えている

甲高い声が鼓膜を劈くような気さえした

麻のシャツのしたに、ボーダーのはいったTシャツを着ていた背の高い男が

「そうだね」

と言って、女の腕を自分の方に引き寄せたのも、覚えている

見て見ぬふりをして、気にしてないふりをした

女のハイヒールが床を何度もならして、

「本当は悔しくて、かなしくて、たまらないんだろう?」

と髪を引っ張っていたが

荒くなる呼吸を抑えるのに精一杯だった夏を私は、






覚えている。











今年で26になる

宗教ぐるいの母と、気は弱いが優しい2人目の父の元を離れ、

滑り止めで受かった大学に入学し、上京し、

美術の道を諦めた。

油絵は趣味としていまも続けているが、

ツイッターに投稿しても、色々と履き違えた人間から2リツイート7いいねもらえるかどうかの作品だ。

彼氏はいない、

別に、いなくてもいい

脳裏に背の高い男が浮かんでも、

いなくてもいい

いなくてもいい

高3の夏から、例の女のインスタグラムを監視していたが、どうやらその女はすべての大学に落ちて、その直後に男とは別れていたようだった。

男にはすでに新しい彼女が出来ていたし、

青山学院に合格していた。

新しい彼女はいかにもミスコンで準優勝を逃しそうな女だった。

いい気味、なんて言ってしまうと、貧しいように思えたから、

女のインスタグラムのストーリーと、

泣き顔の自撮り、38度と表示された体温計の写真と添えられた長文をスクショしておくくらいで済ませた。


一方私には1度大学で彼氏が出来たが、

気の弱い父に姿を重ねてしまって、

次第にぎくしゃくして別れた

後日聞けば、彼も私にひねくれ者でひとりぼっちの、2年前に自殺した元カノの姿を重ねていたそうだ。

それから大学を卒業した今でもたまにご飯を食べに行ったり、小説の貸し借りする関係を続けている。

昨日も彼と飲んだ

2人でポテトや唐揚げをビールで胃に押し込んで、近況の話をした。

そのあとは本当に何もなくて、何も無かった

もう大人なんだから、セックスくらいで騒がないのに。

埼京線で自宅に帰る時

「これでいいのだ~」とお馴染みの曲が頭に流れて、笑った。

電車の窓にはファンデーションがよれた私がいた。

エスティーローダーのファンデ、やっぱり買おう」

そう呟いてAmazonほしい物リストをクリックした。










とても甘く深い恐怖




行きつけの喫茶店には今日も閑古鳥が鳴いていた。

ここを開拓するのには少々勇気が必要になったが、それなり、いやそれ以上の価値があったと思う。

スナックや品のない居酒屋が立ち並ぶ狭い地下街に店を構えたこの喫茶店だが何を飲み食いしても不味くはなかった。

コーヒーや紅茶に関しては全く知識がないので、それなりの人間が飲めばまずいうまいが分かるのかもしれない。しかしそんなことは正直どうでもよい。

俺はこの空間に価値を感じていたのだ

聞いたことのない古い洋楽が流れ、趣のある家具、食器、長い時間を生きそれなりの知恵と疲れを宿したものにしか醸し出せない雰囲気がここにはあった。

相変わらず店主の男とウェイトレスは無愛想だが、そこも良い。

今日も俺はここでコーヒーとサンドウィッチの食事をしていた。今日以前の毎日と同じように、静かで豊かな時間を過ごしていたのに

「先輩!」

どうしたらいいんだ。

この空間にいるのは、ウェイトレス、店主、そして俺。ウェイトレスは女よりもずっと若く見えるし、店主は女よりもはるかに歳をとっているように見える。彼女から見て「先輩」と呼べるような人間は、俺しかいない。俺だ。この女は俺を呼んでいる。それでも後ろを振り返ってみたり、キョロキョロと眼球だけを動かしてみた。が、女はしっかりと俺を見ていた。

「あっですか?」

情けない声がこぼれ落ちた。

「あなたしかいませんよ!先輩!」

「あのと」

「先輩はご存じないですよね!私、西京大学1年生、ニシオハルミです!」

「西京

「はい!西京大学!薬学部です!」

「あ

いてもたってもいられなくなり、まだあたたかいコーヒーとサンドウィッチを残して席を立とうとした。

「怪しいものじゃないんですよ!ただ

逃げるようにして喫茶店を出た。

全身から吹き出した汗がつめたい風にあたって寒い

地下街を抜け出す階段から嫌な光が差し込んでいる

拳に力を入れて駆け上がった。


俺が病気だからか?

いや、病気じゃなくても、健常な人間でもあんなことがあれば、こうなるだろう、

「戻らなきゃ」という文字が、膨らんで頭の中を支配する。

何を考えているんだ、俺は。

代金は前払いだし、戻る必要なんて

「戻らなきゃ」という言葉の輪郭を指先で撫でたり引っ掻いたりした。

ニシオハルミという女の悪意か?

不安が俺の足首を掴むがそれを振りはらい、大学へと向かった。






大学の入口に、

エラの張った顔があった。

気にしているのだろうか、真夏なのにそれを隠すようなロングヘアーをしている

二重まぶたの下に大きく居座る黒の瞳

控えめな口と鼻が全体のバランスをとっている。何度も見た顔、見間違えは、しない

ニシオ、ハルミ

彼女がいた。

最早俺は逃げられないのだろう。

彼女は異常そのものなのだから。


「先輩。」


解決策はもうあった。

(俺は)

そのまままっすぐ突き進んだ。

すれ違いざまに、

「慎くん、」と彼女にそのままの悪意をぶつけられた。

凍てつくような感覚に陥ったが、根気でそのまま歩いた。

そして

彼女は何回も俺の目の前に現れるようになった。彼女として、ときには、現象として

そのたび無視(それを感じながらも感じていないかのように振る舞う解決策)をして通り過ぎた。それが唯一の解決策であると信じていた。間違っていたとしても、こうするしかなかったのだ。

異常そのものであると分かりきっている彼女と関係を持たなければならなくなったのは、

初めに出会ってから3ヶ月後のことである。

怪異現象に支障をもたらされていた俺の生活には、致命傷と呼ぶに相応しい

出来事だった。

彼女が、俺の所属する漫研サークルに入ってきたのだ。

サークルといってもメンバーは成り行きでリーダーになってしまった俺、

同じ学部のムラタ、全く話したことのないキクチという女しかいない

ムラタは真面目だが病弱なため大学でも姿を見ないことが多い。キクチは仏頂面で毎日BLイラストを描いている。

正直、彼女がここに馴染めるのだろうかという先輩らしく吐き出しそうなほど余計な心配をしてしまったほどだ。

「今日から所属させていただく、ニシオハルミです!」

べったりと張り付いたご自慢の笑顔を振りかざしているがこの漫研サークルには全く効かない。空振りだ。

怪異も誤算をするのである。

サークルには講義と研究が終わったあとに必ず足を運ぶようにしているが、そこまで打ち込んでいるわけでもない。

彼女と顔を合わせる機会が増えるのが嫌なら俺が幽霊メンバーになれば良いだけの話なのである。

「おい、かわいい新メンバーをいつまでも立たせてるんじゃねえよ」

久しぶりに顔を見せたムラタだ

彼にひょうきんなところがあるのはかなりありがたい。

「じゃあニシオさんはキクチさん、あ、奥のメガネの女性の方、の隣の席に座ってくれるかな。わからないことがあったらキクチさんに聞いて

キクチはあきらかに嫌そうな顔をしていたが、構わず誘導した。

彼女はおとなしくキクチの隣におさまり、自前のメモ用紙になにかを描いていた。

「俺はバイトあるから、今日は帰るね」

と足早に帰ろうとする

キクチは相変わらず無反応

「せっかく来たっていうのにもう帰るのかよ!俺サークル抜けるぞ!」

とムラタは少し寂しそうにしてくれている

「一緒に帰るか?」

「ああ、そうしようかな。ハーレムはごめんだし」

「こっちかよ」

「やめろよ。いまそういうの良くないんだぞ」

ここまでムラタとのたわいもない話に癒されたのは初めてだ。

それから俺たちは最寄り駅で別れた。

「じゃあな

「おう」

「俺さ、手術なんだよな」

「え?」

「いやいや、この前話した、心臓の」

「あっ、いつなの」

「明後日。今日の夜から入院でさ」

「そうなのか。なんか。ごめんな」

「なんでだよ。話せただけでも良かったさ。お前のオススメのラーメン屋で一番高いラーメン奢れなんて誰も言ってないだろ?」

「あはは、手術終わって安定したら、一番に俺に連絡しろよ。心臓もたないくらいうまいの食わせてやるから」

「ああ」

改札を抜けたムラタの背中はとても淋しい色をしていた。

夕暮れが駅舎を染め

流れる魚の群れの中からムラタという1人の男を、俺の友達を照らしている。

「じゃあ!」

俺の声はかき消されてしまったが、既にムラタはいなかった。




Idol




同級生がアイドルになっていた

インターネットで彼女の名前を検索すれば、

大量の情報がヒットするようになった

画面の中に、厚みのない笑顔の彼女が並ぶ

最早、裏側なんてなかった。

彼女の歌も、踊りも、

閲覧数の声が簡単に安いものにした。

閲覧数に愛され満たされ続ける彼女の心に、私はいるのだろうか?

確実な日々

少女の軽い悪意が、軽いままであることを願いながら、

頭の中に浮かぶ不気味な出会いを「アイドル」という彼女そのものの歌に流し、全てを委ねた


みせいねん

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あの子も私も、それほど変わらないんだと思う。

同じくくりにされて生きてる、平等で、残酷だ。

無個性で、同じ色の存在

確かにあるけど、ないようで、

始まりも終わりも、私たちのものは、とてもありふれている。特別じゃ、ない。


加湿器がこわれたことに、私は気づかなかった。今思えば、それが致命傷だったのかもしれない


分かっているけど、分かっていない、

だから真実を突きつけられたとき、悲しくなるのだ。

認められたいんじゃない

けど、

私は誰かの「特別」でいることを望んでいた。